17.『古典落語』「たちきり」
吉原通いが日課だった若旦那・清三郎(きよさぶろう)は、馴染みの遊女・お久(おひさ)との関係に終止符を打たれてしまう。理由は、「他の大店に身請けされることが決まったから」とのこと。すっかり気落ちした清三郎は、それ以来、飯も喉を通らず、昼も夜も布団の中でうつぶせたまま。心配した番頭がご隠居に相談し、何とか立ち直らせようと手を尽くす。

ご隠居は、「酒を断ち切るように、女も断ち切らにゃいかん」と、まずは気晴らしに温泉へ誘い、清三郎の気を紛らわせる作戦を立てる。また、江戸へ戻ってからは「たちきりそば」を食べさせることを勧める。「たちきり」とは、精進料理で出す汁気のないそばで、名の通り“縁を断ち切る”という意味が込められている。

清三郎、温泉で少しは気も晴れた様子だが、帰り道、ふとした折に「やはりお久に一目だけでも…」と口走る。ご隠居や番頭が「それでは意味がない」と止めるも、清三郎は意を決したように、夜の吉原へと足を向けてしまう。かつての馴染みの部屋の前に立つ清三郎。だが、そこにはもう彼女の姿はなかった。襖越しに聞こえたのは、他の男の声だった――。

愕然とした清三郎、今度こそ本当にお久との縁は終わったのだと痛感する。帰り道、ご隠居が「たちきりそばでも食って帰ろうか」と声をかけると、清三郎は少しだけ笑って「今度は、“涙の塩味”がついてそうですな」と応じる。こうしてようやく、若旦那の心にも小さな区切りがついた。江戸の夜に、ひとすじの寂しさと、ほんの少しの希望が灯る。

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