37.『古典落語』「粗忽の釘(そこつのくぎ)」
江戸は神田の長屋に住む男、与太郎ならぬ「大工の八五郎」は、筋はいいがとにかく粗忽者。ある日、知り合いの旦那から「長屋の雨漏りを見てほしい」と頼まれ、はりきって出かけてゆく。現場に着くと、天井裏の梁(はり)に釘を打ち込むよう頼まれた。八五郎、道具箱を担いで屋根裏にのぼり、早速トントンと音を響かせる。が、天井板の裏から「痛てぇ!」と声が。あわてて覗くと、下にいた旦那の頭に釘を刺してしまっていた――。

「す、すみません、てっきり梁だと思って…」と平謝りの八五郎。だが、旦那は意外と冷静で「まぁ、怪我は浅い」と許してくれる。それでも納得がいかぬ八五郎、「今度は失敗しません」と、再び屋根裏に上る。だがまたもや「痛てぇ!」と叫び声。今度は女中の背中を貫いてしまった。さすがに居合わせた者たちは「もう帰れ!」と怒鳴るが、八五郎は「いや、今度こそ…」と引かぬ姿勢。

何度も失敗する八五郎に、ついに大家が「お前さん、釘を打つとき、下を見なさい」と注意する。「いや、梁だと思って…」と弁明するが、見当違い。ならばと、梁に紙を貼って「ここだ」と印を付けることに。八五郎、ようやくまともに打ち出す。だがしばらくしてトン、トン、ドン!と音が止まり、静けさに。覗いてみると、今度は自分の着物の裾を釘で留めてしまい、梁にぶら下がった状態。ぶらぶら揺れながら、「今度は完璧でしょ…?」と得意げ。

結局、部屋は修理どころか大騒ぎ。旦那は肩を落とし、女中は湿布を貼り、大家はため息まじりに「お前さんは“釘よりも粗忽”が打ち込まれてるようだ」と呆れる始末。八五郎はどこ吹く風、「でも、落ちないってことは、釘の効き目は抜群ですぜ!」と笑ってしめくくる。江戸っ子の愛嬌と大雑把、そして人情がにじむ、まさしく“粗忽一代”の一席であった――。

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