38.『江戸小咄』「尻端折(しりはしより)」
江戸の裏長屋に住む与太郎は、着物の裾を引きずり、歩くたびに泥をはねる粗忽者。ある日、ご隠居が「与太、もう少し尻を端折って、しゃんと歩きな」と注意した。ところが与太郎は首をかしげ、「尻を端折るとは、尻を短くすることですかい」と尋ねる。ご隠居は笑いながら、着物の後ろ裾を帯へ挟む仕草を教えた。

ご隠居は笑いながら立ち上がり、着物の後ろ裾を少し持ち上げ、帯の間へきちんと挟んで見せた。「こうすれば裾を引きずらず、泥もはねない。上げすぎず、膝のあたりで加減するのが肝心だ」と教える。与太郎は何度もうなずきながら、ご隠居の仕草をまねる。しかし、分かったような顔をしているものの、肝心の“ほどよい加減”までは理解していなかった。

その姿を見た子どもたちは面白がり、古い手拭いや着物の裾を帯へ挟んで、「与太さんの尻端折だ」と行列を始めた。与太郎はいつの間にか先生にされ、「もっと高く端折れ」「走っても落とすな」と威張り出す。騒ぎを聞いたご隠居が駆けつけると、路地いっぱいに尻端折姿の子どもが並び、長屋は祭りのような騒ぎになっていた。

噂は町内へ広がり、商家の女将まで「与太さんが新しい粋を始めたそうですよ」と笑った。ご隠居が「端折るにも程がある。尻まで見せる奴があるか」と叱ると、与太郎は慌てて裾を下ろした。それでも周囲の笑い声を聞くと、照れ隠しに胸を張り、「江戸の流行は、少し先を行くくらいがよいので」と言い、また皆を笑わせた。

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