39.『江戸小咄』「座頭(ざとう)」①
ある夕暮れ、町の辻にひとりの**座頭(盲目の按摩)**が現れた。杖を頼りに歩む姿に、行き交う町人は振り返る。「またあの座頭かい。声が妙に艶っぽくってな」と、どこか噂めいた口調。座頭は通りかかる人に声をかけ、「ちと揉ませていただけませんか」と頼むが、皆なぜか困ったような笑顔で立ち去っていく。

その晩、酒屋の角で与太郎が友人に話す。「あの座頭よ、按摩じゃなくて女なんだとさ」。「えっ」と驚く周囲に、与太郎は得意げに続ける。「ついこの間、間違って銭湯に入ったんだがね、声をかけたら女湯から返事があってさ」。座はどっと沸き、噺は一気に町内に広まった。

翌日、ご隠居が座頭に声をかける。「嬢さん、どうしてそんな真似を?」すると座頭は微笑んで、「目が利かぬゆえ、世間に揉まれたくなくて……按摩といえば、男と思われて、世も歩きやすうございますゆえ」。ご隠居は感心して、「なるほど、江戸には見えぬ粋が転がっておる」と呟いた。

その後、座頭は相変わらず町を歩き、按摩を生業としていたが、誰も「女だ」などとは騒がず、ただ静かに道を譲った。
――江戸の町には、**見た目で測れぬ“粋”**がある。目が見えぬ者にも、見えている者にも、それぞれの“歩き方”があるのでござんす。

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