90.日本おとぎ噺 「あんばらやみの馬」
昔、ある村の若者が、親に先立たれ一人で暮らしていた。真面目で働き者だったが、家が貧しく、なかなか暮らしは楽にならなかった。そんなある晩、夢の中にひとりの老人が現れ、「お前の苦労を見ておる。この先、あんばら闇に出る馬を捕まえれば、運が開けよう」と告げた。

夢から覚めた若者は、あんばらやみ――それは昼でも薄暗い森の名だった――に向かう決意をする。次の日、竹槍を持ち、草履でその深い森へと踏み入った。木々のざわめきと鳥の声に囲まれながら進むうち、不意に地響きが起こり、闇の中から黒い馬が現れた。目が赤く光り、鬣をなびかせて疾走してくる。

若者は恐れずに立ち向かい、必死で黒馬を捕らえると、馬は突然姿を変え、美しい白馬となった。白馬は人の言葉で「これからはお前のそばで働こう」と語った。以来、若者は白馬と共に山仕事や畑仕事に励み、収穫も倍増し、村一番の働き者と評判になる。

白馬と暮らすうちに、若者の家には人が集まるようになり、ついには立派な家族を持ち、村の長として皆に慕われた。あの夢の老人は、いつしか神様だったのだと語り継がれ、今もあんばらやみの森では、白馬が現れるという話が残っている。

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