16.『古典落語』「明烏(あけがらす)」
品行方正を絵に描いたような若旦那・時次郎。年は二十そこそこ、髷も初々しく、母のいいつけを守ってお寺通いと学問三昧。遊びの「ゆ」の字も知らぬ堅物ぶり。町の者たちは「このままでは男が腐る」と心配し、馴染みの遊び人・源兵衛と田之助が一計を案じる。無垢な若旦那を花街に連れ出して、“男の世界”を見せてやろうというのである。

「ちょっと芝居見物でも」と言いくるめられた時次郎は、まんまと吉原へ。見事な灯籠、紅の引き戸、三味線の音、揺れる行灯の明かりに、見るものすべてが夢のよう。芸者や太鼓持ちのもてなしに、初めて飲む酒が妙にうまい。緊張しながらも、時次郎はどこか高揚している。そして案内された部屋で、美しい遊女・浦里(うらさと)と向き合うことに。

「まあ、お若いのに真面目そう」と微笑む浦里。時次郎は赤面しながらも、次第に心を許し、気がつけば酔いと色香に包まれて……。その夜、源兵衛と田之助はそっと部屋を抜け出し、朝帰りの準備。夜が明けるころ、まだ夢の余韻にいる時次郎を連れて、三人は花街を後にする。

朝霧のなか、帰路を急ぐ三人。だが、見違えるように変わったのは時次郎だった。帰り道でふと立ち止まり、「あの娘にもう一度会いたい」と名残惜しげ。源兵衛と田之助が驚くと、「今度は“昼から”行ってみたい」と涼しい顔。世間知らずの若旦那が、ひと晩で艶なる江戸の男に変貌した瞬間。陽の昇る吉原に、朝帰りの三羽烏――“明烏”が飛び立ってゆく。

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