14.『古典落語』「藪入り(やぶいり)」
江戸の町に、盆と正月だけ奉公人が休みをもらって実家に帰る「藪入り」の風習あり。ある長屋、堅気な職人の父親と、口数の少ない母親のもとへ、久々に一人息子・亀吉が帰ってくる。町の連中も「亀坊が帰ってくる日か」と噂するほど、親の喜びようはひとしおで、前の晩から母親は赤飯を炊き、父親は風呂を焚いて待ちわびていた。

朝早く、亀吉が姿を現す。丁稚の姿にすっかり板がつき、すらりとした青年に成長している。母は涙ぐみながらも嬉しそうに身の回りの世話を焼き、父親は表情に出さぬまでも、内心浮き立っている。やがて三人でちゃぶ台を囲み、久しぶりの団らんが始まる。亀吉の奉公先の様子、旦那と奥様のこと、仲間の話など、ぽつぽつと語られる。

そんな中、父親がふと尋ねる。「…悪いこと、してねぇか?」。亀吉はしばし黙り込み、やがて懐から一つの巾着袋を取り出す。「実は…仲間の金を盗った小僧がいて、あっしがそれをかばって、旦那様に殴られました。でも――あの子には、あっしがしてもらったように、誰かがかばってやらねぇと…」と語る。父は無言でそれを聞き、ぽつりと「…立派になったなぁ」と涙ぐむ。

夜が更け、息子は早めに休む。夫婦は寝間で静かに話す。母は「亀が立派になって…嬉しいねぇ」と涙ぐみ、父はしばらく無言ののち、「あいつが帰って来た甲斐があったよ」と呟く。明け方、再び奉公先へ戻る亀吉を、両親は玄関先で見送る。短いひとときながらも、親子の情が深く結ばれた一日。江戸の町の空には、藪入りの朝焼けが静かに染まっていた
――。

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