31.日本おとぎ噺 「龍の淵(りゅうのふち)」
むかし、山奥の村に、大きな淵(ふち)がありました。村人たちは「龍の淵」と呼び、決して近づきませんでした。というのも、その淵には、龍が棲んでいるという古い言い伝えがあったからです。ある年の夏、淵のそばの田んぼで農作業をしていた若者が、ふと水面に美しい光を見つけました。それはまるで龍の鱗のように、きらきらと揺らめく光だったのです。

その晩、若者は村人たちにその光の話をします。「あの淵にはやはり龍がいるのではないか」と、村人の間で噂が広まりました。するとある晩、村中に雷鳴がとどろき、激しい雨が降り出し、淵から光の柱が立ちのぼったのです。村の長老は語りました――「昔、龍神を祀る祠があったが、戦で焼けてしまった。怒りを買ったのかもしれん…」。

村人たちは恐れおののきましたが、若者はふと思い立ちます。「もし本当に龍が怒っているのなら、祠を建て直そう」と。皆の協力を得て、山の神木を使って小さな祠を再建し、龍の淵の近くにそっと祀りました。若者は米や塩、果物などを供え、龍に向かって手を合わせて願います。「どうか村をお守りください」。

それからというもの、淵の光は消え、雷雨も起こらなくなりました。村には再び平穏が戻り、稲もよく実るようになりました。村人たちは、祠に感謝を込めて祭りを開くようになり、龍の怒りが鎮まったことを喜び合いました。時折、淵の水面にやさしく光る波紋が現れ、誰かがそっと見守っているようにも思えたのです――。

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