12.『古典落語』「厩火事(うまやかじ)」
八五郎の女房・おとよが、最近どうにも様子がおかしい。ふとんを並べても背を向け、口も利かない。八五郎は困り果て、長屋のご隠居に相談に行く。ご隠居は「女というものは火のようなもの」と説き、おとよの心の内を探るよう諭す。そしてこう助言する――「まずは気持ちを確かめてみなされ」と。江戸の裏長屋、ご隠居の知恵とお節介が光る導入である。

ご隠居の取りなしで、おとよを呼び出し話を聞くことに。おとよは少しずつ胸の内を語り出す。「あたしが死んだら、旦那はどうする?」と問いかけるおとよに、八五郎は「すぐには再婚なんて考えない」と応えるが、その「すぐには」が癇に障る。女心は複雑で、言葉の端々が引っかかる。おとよは「妾の骨を火鉢に入れて、思い出してくれるか」と畳みかける。八五郎は、どんどん答えに窮していく。

話はますます妙な方向へ。おとよは「もし火事で妾の骨が焼けなかったら?」と聞く。八五郎は「じゃあ、厩の火事の灰といっしょに入れる」と返すと、「あたしは馬かい!」と激怒。八五郎は焦って「じゃあ、ちゃんと骨壺に」と言い直すが、もう手遅れ。おとよの怒りは収まらない。男の無神経と女の情の食い違いが、ますます面白さを増していく。

結局、ご隠居が仲裁に入り、おとよの機嫌をなんとか取り直す。女房の気持ちを軽んじた八五郎も、少しは改心するようす。落ちは、ご隠居の「馬の骨と間違えられたら、それこそ厩火事だ」という一言。江戸っ子の夫婦喧嘩と男女のすれ違い、そして人情と滑稽が織りなす、まさに落語らしい一席で幕を下ろす。

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