11.『古典落語』「一目上がり(ひとめあがり)」
江戸の長屋裏にある賭場では、博打打ちたちがひしめき合っていた。丁か半か、サイコロの音が夜の静けさに響く。そんな中、ある若者が現れ、最初の勝負で見事に「一目上がり(出目が一で勝ち)」を決める。「こりゃ縁起がいい」と周囲も盛り上がり、彼は次々と勝ちを重ねていく。

若者は日を重ねるごとに勝ち続け、「一目上がりの○○」と異名までつくほどに。噂を聞きつけ、見物人も増え、賭場はにわかに活気づく。しかし、ある晩を境に流れが変わった。いつも通り「丁で」と張ったが、出目はことごとく逆へ。勝ち続けていた男の顔に焦りの色が見え始める。

連敗が続き、これまでの勝ち分はおろか、懐の金も底をつく。見かねた古株の博徒が声をかける。「あんた、潮時じゃねぇのかい」。だが若者は耳を貸さず、最後の一文まで賭け、ついには着物まで質に入れる始末。運を読み違え、勝ちに執着した彼の姿は、まるで落ちぶれた狸のよう。

とうとう最後の勝負も敗れ、若者は丸腰で畳に座りこむ。そこへ親分が声をかけた。「おう、“一目上がり”の若、見事に“上がり”だな」――つまり「賭場を卒業(=上がる)」ってわけだ。負けてもどこかサッパリとした若者、「これも人生修業だ」と笑う。夜の賭場には、粋と諦観、そして江戸っ子の軽やかさが残るのであった。

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