9. 『古典落語』「碁どろ(ごどろ)」
町内に住む碁好きの隠居が、今日も暇を持て余しつつ、誰か相手が来ないかと待っていた。そこへ現れたのが、見慣れぬ若者。物腰柔らかで、碁も少々打てるというので、さっそく対局が始まる。だがこの若者、素人を装いながらも、じつはかなりの腕前。隠居はまったく歯が立たず、連戦連敗で悔しがる。
それでも勝てぬとなると、人間、腹が立ってくるもので、「今夜こそは勝ってやる」と躍起になる隠居。一方の若者は、飄々としながら碁を打ち、盤上では隠居を翻弄する。

何日か通ううち、若者はすっかり隠居の家に出入りするようになり、対局を終えるとお茶や饅頭をご馳走になる始末。「あんたが来ると碁が打てて嬉しい」と、隠居は上機嫌だが、勝てぬことへの鬱憤も募る。
ある日、近所の者がこっそり耳打ちする。「あの若者、泥棒だって噂がありますよ」。驚いた隠居が問いただすと、若者はしれっと「ええ、泥棒です」と答えるではないか。開き直る様子にあっけに取られる隠居。

驚きつつも、「それでもあんたの碁は見事だ。できればもう一局」と言ってしまう隠居。若者も「碁が打てるなら、泥棒でもよかろう」と応じ、二人は奇妙な関係を続けることに。
だがある夜、若者が碁盤に集中しているすきに、裏から本物の泥棒が侵入する。物音に気づいた隠居が驚くと、若者が立ち上がってその泥棒を捕まえた。どうやら碁に熱中していたため、盗みに来た奴を「商売の邪魔」とばかりに取り押さえたらしい。

駆けつけた町役人に「この若者こそ泥棒です」と隠居が訴えるが、若者は捕まえた泥棒を引き渡し、「人を助けた善人だ」と褒められる始末。結局、「碁が強くて、悪事も憎めぬこの若者、碁どろとして生きるほかあるまい」と、隠居は苦笑い。
こうして、腕は立つが素性の怪しい「碁どろ」は町内に名を知られ、隠居の碁敵として今日も盤を挟むのであった――

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