16.『日本おとぎ噺』 「天福地福」
昔むかし、ある山里に「天福(てんぷく)」という名の、やさしく気立てのよい男が住んでおった。天福は貧しいながらも正直者で、山の薪を拾っては町で売り、母とふたりでつましく暮らしていた。ある日、山道で迷った旅の僧に出会い、持っていた団子を差し出し、道案内までしてやった。僧は深く感謝し、「よいことがあるじゃろう」と意味深に笑って去っていった。

その夜、天福の夢枕に白髪の老人が立ち、「そなたの徳を見て、福を授ける。目覚めたら枕元を見よ」と告げた。目を覚ますと、そこには見慣れぬ小判が一枚。そして不思議なことに、その後も正直に人助けをするたびに、小判が一枚ずつ現れるようになった。天福は欲張ることなく、人々に分け与えながら慎ましく暮らしていた。

この噂を聞きつけたのが、「地福(ちふく)」という男。天福の隣村に住む男で、欲深くずる賢い性格だった。地福は「自分も同じことをすれば小判が出るに違いない」と考え、わざと僧に施しをしたり、大げさに人助けを演じてみせた。しかし、枕元に小判が現れることはなかった。腹を立てた地福は、天福の家に忍び込もうとする。

しかし地福は、天福の母が一人で留守番しているところに忍び込み、足を滑らせて薪に頭をぶつけ、気絶してしまう。帰宅した天福は驚き、けがの手当てをし、夜通し看病した。目を覚ました地福は、自分の愚かさと天福のやさしさに涙し、改心する。「福とは金じゃない、人の心じゃ」と天福は言い、二人は笑い合った。やがて地福も、正直に生きて小さな幸せを得ていったという。

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