41.『江戸小咄』「雷②(かみなり②)」
ある夏の午後、雷鳴がとどろき始め、町中がざわめいた。
長屋の連中は「こりゃひと雨くるぞ」と洗濯物を取り込んだり、戸を閉めたりと大騒ぎ。そんな中、与太郎が大声で叫んだ。
「こいつは危ねぇ! 尻を隠せ! 雷さまに尻を取られちまうぞ!」

与太郎の言葉に、子どもたちは一斉に尻を押さえて逃げまどい、大人たちも苦笑い。
ご隠居が「雷に尻を取られるなんてのは迷信だよ」と笑っても、与太郎は真顔で首を振る。
「いや、あっしのいとこの弟の友だちがな、昔、雷が鳴った日に尻がかゆくなったって話で……」
まるで筋が通らない話でも、妙な迫力に、近所の婆さんまで戸口で尻を隠す始末。

やがて空が晴れ、雷も遠のいた。人々がほっとして戸を開けると、与太郎が得意げに現れ、懐から小さな袋を取り出した。
「雷さまから尻を守る“守り袋”でござんす。一つ十文、今なら二つで十八文!」
これにはご隠居も呆れ顔。「おまえ、それが目的か……」
だが近所の子どもや老婆たちは「念のために」と買っていく。

夕方、茶店で与太郎は売上を数えながらぽつり。
「江戸の町じゃ、雷より怖いのは、笑われることかもしれねぇな」
ご隠居がにやりと笑って返す。「それでいて、笑わせる奴が一番えらいのさ」
――江戸の空に、夕焼けと与太の商い魂が、今日もちらりと光ったのでござんす。

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