43.『古典落語』「百年目(ひゃくねんめ)」
江戸のある大店。主人は厳格で真面目な人物。番頭の清兵衛は堅物で通っており、金勘定も仕入れもきっちりこなし、店の者からも一目置かれていた。ある日、店ではお得意先の接待が重なり、奉公人たちは大わらわ。だが、そんな最中、清兵衛がこっそりと外出してしまう。これを見咎めた手代たちは不審に思い、こっそり後をつけることに――。

つけてみれば、清兵衛の行先はなんと吉原! あの堅物番頭が、花魁と酒を酌み交わし、遊びに興じているではないか。思わず手代たちは耳を疑うが、確かにそこにいるのは清兵衛本人。帰宅後、番頭は何食わぬ顔で仕事に戻るが、これが主人の耳に入ってしまう。主人は激怒し、番頭を叱責するか、解雇すべきかと思案する。

しかしその夜、主人のもとに清兵衛が詫びに訪れる。「実は…今日が自分の“百年目”でして」と切り出す清兵衛。なんでも、若い頃に「百年目まで真面目に働いたら、一日だけ羽目を外す」と心に決めていたという。そしてその約束の日が今日だった、と。さらに、「明日からはまた、今までどおり精進いたします」と頭を下げる姿に、主人も苦笑い。

翌朝、何事もなかったように番頭は帳場に戻り、てきぱきと仕事をこなす。その背中を見つめる主人は、ふとつぶやく。「あいつの“百年目”に付き合えたのも、商売人冥利に尽きるってもんだな…」。江戸の町には、真面目一徹な男のささやかな“春”と、それを包み込む大人の粋が、そっと風に乗って香っていた――。

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