37.『江戸小咄』「物知(ものしり)
長屋の与太郎、近頃ちょいと鼻が高い。というのも、町内で評判の物知り老人・ご隠居のもとに通い詰め、あれこれと豆知識を仕入れては、皆の前で披露しているからで――。
「それはね、昔の中国ではこうだったんだ」などと、それらしく語る与太郎に、子供たちも大人たちも「へぇ~」と感心することしきり。

ある日のこと、ご隠居の留守中に、隣町から来た旅人が道を尋ねてきた。「芝神明(しばしんめい)へ行くにはどうすりゃいい?」と聞かれた与太郎、すかさず「芝神明? それはたしか……神明さんだから、光ってるんでしょうね」と、もっともらしく答える。
「こりゃすげぇ!」と町人たち、与太郎のことを「歩く百科事典だ」と持ち上げる。

しかしその晩、ご隠居が戻ってきて、件の話を聞いて大笑い。「芝神明ってのは、お稲荷様みたいなもんで、光ってるわけじゃねぇよ!」と一喝。
与太郎は顔を真っ赤にして、「だって、名前が“しんめい”ですから、てっきり“神明るい”のかと……」と弁解するが、周囲は大爆笑。

それ以来、与太郎は「物知り」から一転、「珍答えの名人」と呼ばれるように。それでも本人はどこ吹く風で、「今度は“けんちく”ってのを学んでみやしょうかね」と、またご隠居のもとへ通いはじめる。
――江戸の町には、知恵も笑いも人情も、転がっていたのでござんす。

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