語り継ぐこころ/日本おとぎ噺・江戸小咄・古典落語・笑いの匠たち

日本おとぎ噺・江戸小咄、古典落語・笑いの匠たちのダイジェスト版と挿絵です。たまに、私の与太話が入ります。 文も挿絵もChatGPTが作っています。   よかったら ★nice! をポチット押してね。

6.『江戸小咄』「俄道心」

100えんメガネ

ある日、江戸の町に住む熊五郎という男が、長屋の裏手で日向ぼっこをしていた。そこへ通りがかった隠居が、「この世は儚いもんだ」とつぶやいたのがきっかけで、熊五郎の胸に仏道の種が芽生える。
「そうさなァ、俺もそろそろ悟りの道ってやつを考えてみるか」と、俄かに道心を起こした熊五郎は、急に酒も博打もやめると宣言。女房も驚くほどの変わりようで、朝からお経を唱える日々が始まる。

熊五郎の変化は長屋中の噂となり、「熊さん、見違えたねえ」と感心されるほど。本人も満更ではなく、「煩悩即菩提だ」とか何とか、どこかで聞きかじった言葉を並べ立て、まるで本物の坊さんのような態度。
だが、信心が深まるにつれ、熊五郎は次第に他人の言動に口を挟むようになる。隣の子供が魚をいじめれば「殺生はあきまへん」と説教し、向かいの八百屋が声を張れば「欲にまみれとる」と眉をひそめる。周囲は徐々に辟易し始める。

ある晩、隣の長屋で宴会が開かれた。酒の匂いと笑い声が熊五郎の部屋まで届いてくる。耐えがたい誘惑に、熊五郎の眉間がピクつく。
「修行の妨げじゃ……」と呟きつつも、しばらくすると「ちょっと様子だけでも」と、こっそり覗き見。宴席では旨そうな煮込みに燗酒が湯気を立てている。目が合った隣人が「熊さんも一杯どうだい?」と声をかけるや否や、熊五郎は一瞬の迷いもなく、ぬっと座に加わる。

すっかり酔っ払った熊五郎、「仏道もええが、煮込みも捨てがたえなァ!」と高らかに笑う。その場にいた皆がどっと笑い、女房も「やっぱりそれが熊さんらしいや」と頬をゆるめる。
翌朝、二日酔いの熊五郎は、「昨日の俺ァ、迷いの中に光明を見たんでぇ」と訳のわからぬ言い訳を口にするが、誰も気にしない。
江戸の町は今日もにぎやか。熊五郎の道心も、春の風のように一時のことと、笑いと共に流れていった。