85.日本おとぎ噺 「天狗のかくれみの(てんぐのかくれみの)」
昔ある山里に、好奇心旺盛な若者が住んでいた。彼は人一倍、天狗の話に興味を持ち、「天狗のかくれみのを手に入れたい」と日々山へ足を運んでいた。ある日のこと、山中で木陰に座る一人の天狗を見つけた。天狗は赤ら顔に高い鼻、羽団扇を持ち、傍らに黒く輝く一枚の蓑を置いていた。若者は気配を殺し、天狗が眠りに落ちるのをじっと待った。

やがて天狗がぐうぐうといびきをかき始めた。若者はすかさず天狗の傍へ忍び寄り、そっと蓑を手に取った。その瞬間、自分の姿がふっと消えたのに気づく。驚きと喜びが入り混じる中、天狗が目を覚まし、蓑がないことに気づくと怒り狂い、山中を駆け回って探し始めた。若者は必死に逃げ、見えぬ姿のまま村へ戻った。

蓑の力で見えなくなった若者は、村でいたずらを繰り返した。人を驚かせたり、物を盗んだりして、次第に調子に乗っていく。しかし村人たちは「これは天狗の仕業だ」と恐れ、神社に祈祷を依頼した。祈祷が始まると、若者は次第に体が重くなり、息も苦しくなる。「これは罰だ」と悟った彼は、泣きながら蓑を山に返す決意をした。

山に戻った若者は天狗の像の前に蓑をそっと置き、「もう悪さはいたしません」と頭を下げた。その後、村では天狗騒ぎも収まり、若者は心を入れ替えて真面目に暮らすようになった。山では今も、誰にも見えぬその蓑が、風にそよぐ葉の音と共にひっそりと眠っているという。

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