36.『古典落語』「三方一両損(さんぽういちりょうぞん)」
大工の熊五郎、腕は立つが気性が荒く、喧嘩っぱやいことで近所でも知られた存在。ある日、仕事帰りに財布を拾った。中には三両。真っ当に届けようと、名乗り出を待つことにしたが、なかなか現れぬ。やがて、持ち主の左官・八五郎が名乗りを上げた。熊五郎は「拾い主に届け出るとは殊勝な心がけ」と言って財布を返そうとするが——。

ところが八五郎、「拾ってくれたのはありがたいが、銭はもう諦めたつもりだったので、いまさら受け取るわけにはいかない」と辞退する。それに熊五郎が激怒。「この俺の真心を無にする気か」と言って受け取らせようとすれば、八五郎は「恩に着るが、筋が通らぬ」と一歩も引かぬ。町の衆も集まって大騒ぎ、しまいには「町奉行に裁いてもらおう」という話に。

お奉行様は名高き大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ)。二人の言い分を聞き、「拾った者は返す、落とした者は受け取る。それが人の道理。しかし、どちらも筋を通しすぎて一歩も譲らぬ。ならば、この越前守が一両を足して、合わせて四両。熊五郎に二両、八五郎に二両、それぞれ納めよ」と言い渡す。

二人は顔を見合わせ、深く頭を下げる。「三人で一両ずつ損をしたが、心は晴れた」と口を揃える。江戸っ子の意地と情、そして奉行の見事な裁きで、町には爽やかな風が吹いた。まこと、粋で洒落た人情噺の一席。

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