84.日本おとぎ噺 「かみそり狐(かみそりぎつね)」
昔、ある村に「かみそり狐」と呼ばれるずる賢い狐が住んでいた。化けるのが得意で、人間をだましては笑っていた。とくに好物は髪の毛で、町の床屋からこっそり髪を盗んでは山へ逃げ帰るという奇妙な習性があった。人々は恐れてその狐に関わらぬようにしていた。

ある日、若い床屋の新米・市助(いちすけ)が狐に騙されて髪をすべて盗まれてしまった。悔しがる市助に、古老が「その狐には弱点がある。かみそりの匂いが苦手なんじゃ」と教える。市助はさっそく鋭いかみそりを磨き、狐退治の策を練った。

次の晩、また狐が市助の店に現れ、老人に化けて髪を切ってくれと頼んできた。市助は気づかぬふりをして、狐の頭に布をかけ、かみそりの匂いをかがせた。狐はくしゃみをし、しっぽを出してしまう。市助が叫ぶと、狐は正体を現して逃げ出したが、逃げる途中で石にぶつかり、気を失ってしまった。

村人たちに見つかった狐は、以後二度と悪さはしないと約束して山へ帰った。それ以来、村では狐が髪を盗むことはなくなり、「かみそり狐」は人々の語り草となった。市助は立派な床屋となり、「狐すら黙る腕前」と称されたという。

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