『宮沢賢治・光と風の物語』第九回「どんぐりと山猫」
一郎のもとへ、山猫から「面倒な裁判があるので来てほしい」という不思議な葉書が届いた。翌朝、一郎は黄金色の風が渡る山道を進み、きのこや栗の木に道を尋ねながら、山猫の住む草原を目指す。やがて、奇妙な馬車別当と、立派な服を着た山猫に迎えられた。

草原には、たくさんのどんぐりが集まり、「自分こそ一番偉い」と言い争っていた。大きいもの、丸いもの、細長いもの、それぞれが自分の良さを主張し、裁判は少しもまとまらない。山猫は威厳を保とうとするが、どんぐりたちの騒ぎに困り果て、一郎へ知恵を貸してほしいと頼んだ。

一郎は「一番偉くない者が、一番偉いと決めればよい」と提案した。すると、どんぐりたちは急に静まり返る。誰も自分を「偉くない」とは言いたくなかったのである。山猫は大喜びし、その言葉を裁判の決まりとして言い渡した。長く続いた争いは、たった一言であっけなく終わった。

裁判を解決した礼に、山猫は黄金色のどんぐりを一升ほど贈ろうとしたが、一郎は持ち帰れないので断った。代わりに馬車で家まで送ってもらう。別れ際、山猫は次の葉書をもっと威張った文面にしようかと尋ねたが、一郎は今までどおりがよいと答えた。それ以来、山猫から葉書は届かなかった。

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