91.日本おとぎ噺 「みそ買い橋(みそかいばし)」
江戸のある町に、気立ての良い娘が嫁いだ。娘の婿(むこ)はまじめな男で、いつも「何事も正しく」と心がけていた。ある日、姑(しゅうとめ)から「みそを買ってきておくれ」と言いつけられ、婿は手に壺(つぼ)を持って出かけていった。ところが、行きがけの橋の上で、ふと不安になる。「みその銘柄(めいがら)や量を聞き忘れた」と。

婿は考えに考え、「勝手に買って帰って間違っていたら、嫁の恥になる」と思いつめる。みその種類、赤か白か、粒かすりか、量は一升か半升か……決められぬまま、橋の上で立ち尽くす。通りかかった近所の者が「どうした?」と尋ねても、婿は「いや、ちょっと」と笑ってごまかすだけ。日が傾く頃には、壺を下げたまま何時間も橋にいる始末。

家に戻らない婿を心配した嫁が橋まで迎えにくると、そこには、ぐったりした表情で壺を持った婿がいた。嫁が声をかけると、「聞き忘れたから買えなかった」と小さく答える。嫁はくすっと笑い、「うちはいつも赤味噌よ」と教える。その様子を見ていた近所の人たちは、「あれが“みそ買い橋”の話か」と、江戸の笑い話として語り始めた。

それからというもの、その橋は「みそ買い橋」と呼ばれるようになった。真面目すぎる婿が、たった一言を聞き忘れたばかりに一日中立ち尽くした話は、江戸っ子たちにとって心和む笑い話となり、今もなお語り継がれている。

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