『宮沢賢治・光と風の物語』第十八回「ひかりの素足」第1話 雪山へ向かう一郎と楢夫/6話
山小屋で目を覚ました一郎は、まだ眠る弟の楢夫を起こした。父は早朝から外で働き、冷えた小屋の火を何度も燃やしてくれていた。兄弟が外へ出ると、青空の下で雪山がまぶしく輝いていた。一郎は、霜焼けで赤くなった楢夫の冷たい手を両手で包み、優しく温めてやった。

朝食の前、山の頂から笛のような風の音が響いた。楢夫は突然泣き出し、「風の又三郎が、新しい着物を着せ、母さんが体を洗い、みんなで送っていくと言った」と話した。父は明るく笑って春の祝い事だとなだめたが、その顔は青ざめていた。一郎も胸騒ぎを覚えながら、弟を励ました。

昼過ぎ、父は兄弟に、炭を運ぶ馬方について家へ帰るよう言った。翌日は学校へ行かなければならなかったのである。父は「雪を食べるな」「母さんに鋸を届けるよう頼め」と言い聞かせ、二人を送り出した。機嫌を直した楢夫は雪道を跳ね、一郎は弟を守るように後ろから歩いた。

兄弟は途中で立ち話を始めた馬方より先に進み、峠へ向かった。空は次第に曇り、明るかった雪原も暗く寂しく見え始めた。坂道に疲れた楢夫を、一郎は「早く峠を越えよう」と励ます。そのとき、白い空から細かな雪が舞い落ちた。二人は胸騒ぎを覚えながら、足を速めた。

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