19.『古典落語』「文七元結(ぶんしちもっとい)」
本所に住む左官の長兵衛(ちょうべえ)は、腕はよいが博打好き。ある日、ついに身代をすっかりすってしまい、女房もあきれ顔。娘のお久(おひさ)は吉原に身売りしようとするが、これを知った長兵衛はさすがに胸を打たれ、「明日には金を持ってくるから」と約束し、金策に走る。ようやく吉原の女将・お駒にすがり、五十両を借りることに成功するが、途中、浅草橋近くで一人の若者が川に身を投げようとする現場に出くわす。

止めに入った長兵衛が話を聞けば、その若者・文七(ぶんしち)は日本橋の髪結いの職人で、店の金五十両を失くし、死ぬしかないと思い詰めていたという。長兵衛は驚きながらも「命あっての物種だ」と言い、なんと、借りたばかりのその五十両を文七に渡してしまう。「おれは人の命を救ったと思えばいい」と江戸っ子の義理と侠気で突っぱねる。

家に戻った長兵衛は、女房に金を渡せなかった事情を話すが、当然ながら夫婦げんか。そこへ突然、あの文七が現れ、主人と一緒に五十両を持参して頭を下げる。文七は無事に金を返し、命も救われた恩義から「どうか奉公に使ってほしい」と申し出る。長兵衛は驚きつつも、男気に感じ入り、文七を快く迎え入れる。

月日がたち、長兵衛一家は文七の働きもあり暮らし向きがよくなる。お久も吉原に売られることなく無事に育ち、やがて文七と祝言をあげることに。人の情が人を救い、義理が巡って幸せとなる――。江戸の空に粋と人情がしみわたるような、あたたかな幕引きである。

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