20.『江戸小咄』の「新五左殿(しんござどの)」
町で評判の武士、新五左衛門殿――略して「新五左殿(しんござどの)」と呼ばれる男。
剣術にすぐれ、立ち居振る舞いも見事で、町娘たちの憧れの的。
町人たちも「新五左殿にゃかなわねぇ」と舌を巻く、粋で気風のいい人物であった。

ある日、新五左殿が長屋の前を通ると、子どもたちが竹刀でチャンバラごっこをしていた。
「やいやい、悪党め!成敗してくれる!」
その元気さに笑みを浮かべた新五左殿、「よし、拙者も参る!」と竹刀を抜いて加わる。
町の者たちが面白がって集まり、大の男が子らと真剣に遊ぶ様子に拍手喝采が起こる。

そこへ通りかかったのは、隠居した元同心のご隠居。
「へぇ、新五左殿もなかなかのお役立ちぶりで」
しかしご隠居はこっそり言った――
「だがな、あの人、じつは侍じゃねえんだ。元は大道芸人の座頭だったんだよ」
「へぇ!?じゃあ、あの立ち居は?」
「若い頃、芝居の修行をしてたのさ。ま、人を喜ばせる芸は、本物の武士にだって劣らねぇよ」

町の者たちは目を見張るが、新五左殿は変わらず笑顔で子らと遊ぶ。
「いいじゃねぇか。侍じゃなくたって、あんなに粋で立派な人もいねぇよ」
その夜、長屋の前に提灯が一つ灯る。
「新五左殿 竹刀指南処」――
笑いと稽古と、ちょいとした小粋が交差する、江戸の一隅に、新しい風が吹いていた。

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