86.日本おとぎ噺 「たぬきの糸車(たぬきのいとぐるま)」
むかしむかし、山あいの村に年老いた一人暮らしの老婆がいました。子も孫もなく、糸をつむいでは布を織り、かろうじて暮らしていました。ある雪の夜、老婆が囲炉裏のそばで糸車を回していると、戸を叩く音がしました。開けてみると、小さな痩せた子狸が震えて立っていました。老婆は「かわいそうに」と子狸を抱え、暖めてやりました。

それから子狸は、老婆のそばで暮らすようになり、毎日せっせと糸をつむぐ老婆の仕事を手伝いました。あるときから、夜になると糸車が一人でに回るようになりました。不思議に思った老婆がそっと覗くと、子狸が人の姿に化け、上手に糸をつむいでいたのです。老婆は驚きながらも、「ありがたいこっちゃ」と、涙ぐみました。

ところが、ある日村人たちが訪れ、「どうして急に糸がたくさんできるのか」と不審がります。老婆は真実を話さず、「夜なべをしているのじゃ」とだけ答えました。ですが、村人の中には狸の仕業ではないかと疑い、子狸を捕まえようと罠を仕掛けました。その夜、罠にかかった子狸は重傷を負ってしまいます。老婆は泣きながら手当てをし、「もう無理はするな」と優しく声をかけました。

その後、子狸は姿を消し、二度と現れませんでした。老婆はその日から糸車を回すたび、子狸の面影を思い出し、静かに祈りを捧げました。やがて老婆も年老いて亡くなり、二人が暮らした家には、夜ごと「カラカラ…」と糸車の音だけが響いたといいます。

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