20.『古典落語』死神(しにがみ)
ある日、金もなく仕事もなく、死ぬ覚悟を決めた男のもとに、不気味な老人がふと現れる。「お前のような男を待っていた」と言い、男を「死神」と名乗って話し始める。曰く、この世には寿命を迎える人間に付き添う死神がおり、その死神が頭の方に立っていれば命は助かるが、足元に立っていれば助からぬ運命。だが、もし頭に死神が立っている病人を見分けて助ければ、大金が手に入る――そう囁く死神に導かれ、男は「命を売る商売」へと足を踏み入れることになる。

男は死神に教えられた呪文と動作を使い、次々と重病人を「奇跡的に」回復させ、一躍評判の「名医」に。長屋では「ありがてぇ先生様」と呼ばれ、贅沢三昧の日々を送る。だが、その裏には、人の死と隣り合わせの危うい綱渡り。男は次第に、死神の力に酔いしれ、己の手で生死を操っているような錯覚を覚え始める。

ある日、大店の旦那の一人娘が重い病に伏し、男に白羽の矢が立つ。駆けつけてみれば、死神は娘の足元に立っていた――本来なら諦めるしかない。だが、金に目がくらんだ男は、死神を欺こうと細工を弄し、寝台の向きをそっと変えてしまう。これで頭の方に死神が来る、と呪文を唱えようとしたその瞬間、背後に気配が。振り向けば、さきほどの死神が血相を変えて睨んでいた。

怒れる死神は男を地下の洞窟に連れ去る。そこには、無数の灯心が燃え、消えかけている者もいれば、今まさに燃え尽きんとするものもある。死神は言う、「これがお前の命の灯だ」と。見ると、自分の灯火は小さく、今にも消えそう。慌てた男が「灯芯を継ぎ足せないか」と懇願すると、死神は一本の蝋燭を渡す。だが手元が狂い、灯芯は倒れて消えてしまう。――男は叫び声をあげながら、闇の中へと吸い込まれていく。
こうして、江戸の片隅に現れた「命を売る男」は、己の欲に呑まれ、死神に呑み込まれていった。金も名誉も幻。人の命を玩んだ報いが、静かに幕を閉じる。

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