79.日本おとぎ噺 「あとかくしの雪(あとかくしのゆき)」
昔、山の噴火で畑が火山灰に覆われ、作物の実らなくなった村があった。ある寒い夕暮れ、腹をすかせた旅人が村へたどり着き、食べ物と一夜の宿を求めて家々を訪ねた。しかし、村人たちにも余裕はなく、誰も旅人を助けようとしない。庄屋は、大切な畑の大根を盗めば、火山灰に残った足跡をたどって代官所へ突き出すと言い放った。力尽きた旅人は、村外れの道端で倒れてしまった。

村外れに一人で暮らす貧しいおばあさんが、倒れていた旅人を見つけ、自分の家へ連れ帰った。囲炉裏の火で体を温め、残っていたわずかな大根雑炊を差し出すと、旅人は夢中で食べた。しかし、それだけでは空腹は収まらず、腹の音が寂しい家の中に響いた。何も持たないおばあさんは困り果てた末、「しょうがねえだ」とつぶやき、暗い夜道へ出ていった。しばらくすると、その腕には一本の大根が抱えられていた。

おばあさんは大根を煮て、旅人に腹いっぱい食べさせた。夜明け前になると、旅人を急いで起こし、何も尋ねず山を越えるよう言いつけた。外へ出た旅人は、火山灰の上に残る足跡が、おばあさんの家から庄屋の畑まで続いていることに気づく。自分を救うため、大根を盗んだのだと悟った旅人は、涙をこらえて山道を急いだ。一方、畑を見回った庄屋も足跡を見つけ、夜が明けたら役人を連れて捕らえようと待ち構えた。

やがて庄屋が役人を呼びに出ようと戸を開けると、季節にはまだ早い雪が静かに降っていた。白い雪は火山灰の道も畑も覆い、おばあさんの家へ続いていた足跡をすっかり消していた。庄屋は盗んだ者を突き止められず、ただ降り積もる雪を見つめるしかなかった。旅人を思いやったおばあさんの優しい心を、天が助けたのだろうと村人たちは語り合った。それから、この不思議な雪は「あとかくしの雪」と呼ばれるようになった。

このブログへのコメントはmuragonユーザー限定です。