129.日本おとぎ噺 「分銅狐(ふんどうぎつね)」
昔、ある村に分銅を使う米屋があった。分銅とは米を量るための重りで、商売の要ともいえるものだった。ところが、その分銅がしばしば消え失せる。不思議に思った米屋が夜更けまで店に潜んでいると、一匹の狐が現れて分銅をくわえ、どこかへ運び去っていた。狐はそれをまるで宝物のように抱えて、山の中へ消えていった。

米屋は「狐がなぜ分銅を…?」と首をかしげつつ、ある晩そっと跡を追った。山奥の巣穴に入った狐は、分銅を仔狐の枕元に置いていた。よく見ると、その重りを抱くように眠る仔狐は幸せそうな顔をしていた。どうやら狐にとって分銅は、まるで守り神のような大切なものになっていたのだ。米屋は胸を打たれ、分銅を取り返すのをためらった。

だが商売に使う分銅がなくては困る。米屋は何度か取り返そうとしたが、そのたびに狐の親子が大事そうに抱いている姿を見て、足がすくんでしまった。やがて村でも「米屋の分銅が狐に盗まれる」という噂が広まり、笑い話にもなった。米屋は「仕方ない、もう一つ分銅を作るか」と観念した。その夜も狐たちは、重りを抱いて仲睦まじく眠っていた。

やがて年月が経ち、狐の姿も見えなくなった。ある年の秋、山奥で古びた分銅が見つかった。そばには白骨となった狐が寄り添うように眠っており、その姿は分銅を守り抜いたかのようであった。村人は狐の執念深さと親子の情に心を打たれ、山の小祠に分銅を祀って供養するようになった。以来、村人たちは「分銅狐」と呼び伝え、狐を決して悪く言わぬようになったという。

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