『宮沢賢治・光と風の物語』 第十三回「グスコーブドリの伝記」第6話 最後の決断と自己犠牲/全6話
ある年、イーハトーブはこれまでにない厳しい寒さに襲われた。このままでは作物が実らず、大勢の人々が飢える恐れがあった。火山局では、海上の火山島を大きく活動させ、噴き出すガスによって気候を暖める計画が検討された。しかし、最後の作業を行う者は、島から戻れない可能性が高かった。

危険な役目を誰が引き受けるか決まらず、技師たちは重い沈黙に包まれた。そのときブドリは、自分に行かせてほしいと静かに申し出た。幼いころ、寒さと飢えによって家族を失った経験を持つ彼は、同じ悲しみを多くの人に味わわせたくなかった。ペンネン技師は思いとどまらせようとしたが、ブドリの決意は変わらなかった。

ブドリは火山島へ渡り、観測器を確かめながら最後の準備を進めた。遠くに広がる町や農地を思い浮かべ、これまで出会った人々や、失った家族のことを静かに振り返る。そして火山局へ作業の準備が整ったことを伝えた。間もなく火山は大きく活動し始め、空には厚い噴煙が立ち上った。

火山の働きによって大気の流れは変わり、イーハトーブには少しずつ暖かさが戻った。農作物は冷害を免れ、多くの人々の命と暮らしが守られた。ブドリは帰らなかったが、彼が学び、働き続けた生涯は、人々を救う大きな力となった。森で苦しんだ少年は、最後まで他者の幸福を願う立派な技師として生き抜いたのである。

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