『宮沢賢治・光と風の物語』 第十三回「グスコーブドリの伝記」第1話 森で暮らすブドリ一家/全6話
イーハトーブの山あいの森で、少年グスコーブドリは父、母、妹ネリと静かに暮らしていた。家のまわりには木々が茂り、畑では家族が力を合わせて働く。貧しくても、自然とともに生きる日々には、素朴な安心とぬくもりがあった。

ブドリは父に仕事を教わり、母やネリとともに慎ましく毎日を送った。鳥の声、風の匂い、畑の実りは一家の暮らしを支える大切な恵みだった。ブドリはまだ幼いながらも、家族と働き、支え合うことの意味を自然の中で少しずつ覚えていく。

ところがある年、冷たい風が早くから吹き、夏になっても気候はなかなか暖かくならなかった。畑の作物は思うように育たず、森や村の人々の顔にも不安が広がっていく。昨日まで当たり前だった平和な暮らしに、少しずつ暗い影が差し始めた。

やがて寒さはいっそう厳しくなり、実りの乏しさは一家の暮らしを大きく揺さぶり始める。ブドリは、自然の恵みだけに頼って生きることの厳しさを、まだはっきりとは分からないまま感じ取っていた。穏やかだった森の家には、これから訪れる苦難の気配が静かに迫っていた。

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