74.日本おとぎ噺 「地獄のあばれもの(じごくのあばれもの)」
昔、ある村に「市蔵(いちぞう)」という男がいた。乱暴者で人を殴る蹴る、盗みも平気、誰にも迷惑をかけてばかり。やがて市蔵は大酒の末に命を落としたが、善行一つない彼の魂は、真っ逆さまに地獄へ落ちてしまった。

市蔵は、地獄の門をくぐるとすぐに、閻魔大王の前に引き出された。だが反省の色はなく、「うるせぇジジイ!」と啖呵を切り、大王のひげを引っ張る始末。地獄の鬼たちも、最初は地獄の責めを課すが、市蔵の暴れぶりに手を焼く。針の山は一気に駆け上がり、血の池でも泳ぎまわる。「痛くもかゆくもねぇ!」と高笑い。ついには鬼たちが集まって、閻魔大王に「こやつだけは手に負えませぬ」と頭を下げる始末。

あまりの暴れぶりに、ついに閻魔大王が「こんなやつ、地獄でも困るわい!」と匙を投げ、市蔵は地獄から追い出されてしまう。行き場のない市蔵は天国に迷い込む。そこでは極楽浄土の仏たちが静かに過ごしていたが、市蔵はそこでも仏像を蹴り倒し、天女に茶をぶっかける。「おとなしくなんてしてられるか!」と喚き散らし、今度は天界が大騒ぎになる。

とうとう地獄も天国もお手上げとなり、「あいつはもう一度、人間に戻してやれ」という決定が下る。市蔵の魂は、山奥の寺の境内にふと蘇り、何事もなかったかのように目を覚ました。自分が死んで地獄・天国を巡ったことを夢のように思いつつも、以後の市蔵は一変。村のために汗を流し、困った人には手を差し伸べるようになった。「悪さをすれば、行くとこがなくなる」。それが彼の口癖になったという。

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