71.日本おとぎ噺 「あずきとぎ」
昔々、ある山里に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。ふたりは畑仕事をして静かに暮らしていました。村人たちのあいだでは、山の奥の小川から「小豆(あずき)をとぐような音」が聞こえてくるという噂がありました。
「ザッ、ザッ…ザク、ザク…」と、夜になると聞こえてくるその音に、「あれは“あずきとぎ”の妖怪の仕業だ」とみんなは恐れていました。

ある日、若い男が「どうせ風の音か何かだろう」と、噂を信じずに確かめに行くことにしました。
夜になると一人で山の小川のほうへ向かい、じっと耳をすませます。すると、木々の間からたしかに「ザクッ、ザクッ」と、小豆をとぐような音が聞こえてきました。音のするほうへ進むと、小さな石の上にしゃがみこみ、桶に向かって何かをしている小さな人影が見えました。
男が「誰だ!」と声をかけると、その影はパッと姿を消し、音だけが山にこだましました。

男は家に帰ったあとも、耳から「ザクッ、ザクッ」という音が離れませんでした。食事をしていても、小豆のようなものがご飯に混じっていたり、夜になると家の戸をトントンとたたく音が聞こえるようになりました。
それから男はだんだんと元気がなくなり、数日後にはふらふらと山へ行って帰らなくなってしまいました。村人たちは「やはり“あずきとぎ”に取り憑かれたのだ」と噂しました。
それ以降、誰も軽々しく山へは入らなくなり、あの音がしても耳をふさぎ、家の戸をしっかり閉めるようになったといいます。

それからというもの、「見てはならぬものを見てはならぬ」「自然には人知を超えた存在がある」と、村人たちは子どもにも話して聞かせるようになりました。
山からは今でもときおり小豆をとぐような音が聞こえることがあり、人々はそれを静かに受け止め、自然への敬意を忘れずに生きるようになったのです。

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