28.『江戸小咄』「牽頭持(たいこもち)」
芝居町の路地裏、色町の花街では、芸者衆に囲まれて賑やかに立ち回る一人の男がおりました。名は彦三(ひこさ)、商売は牽頭持(たいこもち)。芸も口も達者で、座敷の場を和ませるその姿に、芸者も客も腹を抱えて笑うほど。
「粋な芸と気の利いた冗談、それがあっての夜の華よ」とは、町人の評判。

ある日、若旦那の連れで初めて座敷に呼ばれた田舎侍が、彦三の芸を見て首をかしげる。
「なるほど、これが江戸の芸人か。だが、女の尻を追って騒いでるだけでは、武士の道とはほど遠いな」
その言葉を聞いた彦三、にっこり笑ってこう切り返す。
「へぇ、武士の道は刀一本、拙者の道は扇子一本。斬らずに笑わせるのが、あっしの芸でござんす」

座敷にいた芸者たちがどっと笑い、若旦那も感心した様子。
けれど田舎侍は鼻で笑い、「男の恥さらしめ」と捨て台詞を残して立ち去ってしまう。
後日、その侍が道端で騙され、すっかり狼狽しているところを彦三が通りかかり、さりげなく助け舟を出す。侍は赤面しながらも礼を述べる。

「たいこもち、なかなかのものよの」と侍が呟けば、彦三は扇をくるりと回して答える。
「拙者の芸は、侍の意地も、町人の恥も、ちょいと包んで笑いに変えるものでござんす」
その夜、同じ座敷で杯を交わすふたりの姿があった――
江戸は剣ばかりが武士の道じゃない、粋と情けの通う道もまた、ひとつの武士道だったのでござんす。

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