69.日本おとぎ噺 「幽霊のさかもり(ゆうれいのさかもり)」
昔、とある城下町に、誰も近づかない古い屋敷があった。夜になると、そこから三味線の音や笑い声が聞こえるというのだ。噂では「幽霊たちが酒盛りしている」とも言われ、人々は怖れていた。ある日、町にやってきた浪人風の侍が「幽霊など信じぬ」と豪語し、一晩その屋敷に泊まると言い出す。

夜更け、屋敷の中は静まり返っていたが、次第に三味線の音が鳴り始め、提灯の明かりがぼんやり灯ると、あちらこちらから着物姿の男女が現れる。彼らは何事もないように、侍に盃を勧め、賑やかに酒盛りを始めた。侍も最初は警戒していたが、次第にその雰囲気に呑まれて盃を受け取り、共に酒を飲み始める。

酔いが回る中、侍がふと盃を見ると、酒が赤黒く濁っている。驚いて辺りを見渡すと、肴は骨、座敷は墓地、客は骸骨たちに変わっていた。ぞっとして侍が立ち上がると、幽霊たちは不気味に笑いながら追いすがってくる。侍は刀も忘れて必死で屋敷を飛び出した。

翌朝、侍は町人たちに助けられ、ようやく正気を取り戻す。屋敷はもとの廃墟で、宴の跡など何も残っていなかった。侍は震える声で「二度とあの屋敷には近づかぬ」と語り、それから町を後にしたという。幽霊の酒盛りは、今も月夜に続いているのかもしれない…。

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