語り継ぐこころ/日本おとぎ噺・江戸小咄・古典落語・笑いの匠たち

日本おとぎ噺・江戸小咄、古典落語・笑いの匠たちのダイジェスト版と挿絵です。たまに、私の与太話が入ります。 文も挿絵もChatGPTが作っています。   よかったら ★nice! をポチット押してね。

27.『江戸小咄』「海鼠腸(このわた)」

100えんメガネ

年の瀬も迫ったある夜、長屋の八五郎が、珍しく寿司屋のカウンターに座っていた。
「へい、いらっしゃい。今日はずいぶん羽振りがよろしいじゃねぇか」
親方にそう冷やかされながらも、八五郎はすました顔で「海鼠腸(このわた)をひとつ」と頼む。
隣に座るご隠居が目を丸くして言った。
「へぇ、八、お前さん“このわた”なんざ喰える口か?」



「もちろんでさぁ。年に一度の贅沢ってやつでね」
八五郎は胸を張り、運ばれてきた小皿をちらりと見て、箸をとる。
が、その指先が微かに震えていたのを、ご隠居は見逃さない。
「ふふん……さては、初めてか?」
「う、うるせぇな。黙って食えばわかるんでぇ」



意を決して一口すすると、八五郎の顔が一瞬くしゃっと歪んだ。
ねっとりとした味わい、磯の香り、酒肴として通人好みの品だが、庶民の口にはやや強い。
「……こ、こりゃあ、なんとも、深い味で……」
無理に笑いながらも、口の中では戦が起きていた。
ご隠居はくすくすと笑い、「八、無理すんな。贅沢ってのは、慣れってもんがいるのさ」



「ちぇっ、見栄なんて張るもんじゃねぇな」
そう言いながら、八五郎は茶で口直し。
それでも帰り際、「今度は、鰯のぬたにすっかな」とぽつり。
――江戸っ子とは、見栄っ張りで照れ屋なもの。舌に合わぬ味に顔をしかめても、心のどこかでは、通人ぶってみたいのが人情というものなのでござんす。