22.『江戸小咄』の「小便(しょうべん)」
ある日のこと、長屋に住む八五郎(はちごろう)が、小用を足したくなり、裏手の溝(どぶ)へと足を運んだ。
ところが、その日は朝から雨がしとしと降っており、軒下を出てすぐ、足を滑らせて尻もちをつく始末。裾は泥にまみれ、手も冷たい水に浸かってびしょ濡れ。
「こりゃ、ついてねえなあ」とぶつぶつ言いながら、しょぼしょぼと歩いてゆく。

ようやく目的の場所に辿りつき、用を足そうと袴をたくし上げたそのとき――
なんと、すぐ横で町内の若い娘が洗濯をしていたことに気づく。「あっ」と思ったときにはもう遅く、娘の目が合ってしまった。
赤面する八五郎、娘は気まずげに目をそらす。
「いや、こりゃなんとも…風流ってやつかねえ」と、場違いな言い訳を心中でつぶやく。

翌日、件の娘の母親が八五郎のもとへとやって来た。
「うちの娘がね、昨日のことが気になって…」
八五郎、まさか怒鳴られるかと思いきや、母親はにっこり笑って、「あんな恥ずかしいとこを見たからには、もう嫁に行けないと申しておりまして」とぽつり。
「えっ…えぇ!?」と目をむく八五郎。
「それで、もしよければ…八さん、お嫁にもらってはくれませんかねぇ」

その話が広まると、長屋中が大笑い。
「小便ひとつで祝言とは、江戸も粋なもんだ!」
やがて、八五郎と娘はほんとうに祝言をあげ、今では笑顔の絶えぬ夫婦に。
――江戸の町では、**笑いと縁(えにし)**は、思わぬところから生まれるものでござんす。

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