23.『江戸小咄』「悔(くやみ)」
江戸のある町、気立ての良い男・八五郎が、古くからの隣人であった老人の訃報を聞いた。
貧しいながらも人情深い老人で、町内では顔の知れた人物。八五郎は「そりゃあ、行かにゃあならねぇ」と、急いで悔やみに向かうことにした。

だが、着物は普段着のまま、足元も草履で泥まみれ。
それでも八五郎は、「死んじまった人に見栄張ってもしょうがねぇ」とそのまま出かけ、香をあげて、しみじみと故人を偲んだ。
まわりの人々は、やや眉をひそめながらも、八五郎の真心に気づき、静かに頭を下げた。

悔やみの席を出た八五郎、ふと道端で顔を合わせた知人に言われる。
「なんだい、その格好は。せめて裃でも着てくりゃよかったのに」
すると八五郎、にやりと笑って返した。
「死人はな、洒落のわかる人だったんで。こっちの気持ちだけ、持ってきたんだよ」

その言葉に、知人はぽかんとし、やがて吹き出す。
「まったく、おめぇってやつは……粋だねぇ」
八五郎は肩をすくめて笑いながら、夕暮れの町を去っていく。
――江戸の悔やみには、見栄でも体裁でもない、真心とちょいとした“洒落”が効いていたのでござんす。

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