54.日本おとぎ噺 「湖の怪魚(みづうみのかいぎょ)」
昔、ある村の近くに大きな湖がありました。村人たちはその湖を「神の池」と呼び、決してむやみに入ったり魚を取ったりしませんでした。というのも、昔から「湖には怪しい大魚が住んでいて、人を引きずり込む」という話があったからです。湖に近づいた牛が消えたり、舟が沈んだりする不思議が度々起こり、誰もが湖を恐れていました。

ある日、村の若者の一人が「本当にそんな怪魚がいるのか見てやる」と言い出し、小舟で湖に漕ぎ出してしまいます。村人は止めようとしますが、若者は意気揚々と網を持って湖の真ん中へ。しかし、しばらくすると湖面が急に波立ち、舟が転覆。若者は行方不明となり、網だけが岸に流れ着きました。村中に恐怖が走り、「やはり怪魚は実在する」との噂がさらに広まります。

この出来事を聞きつけた一人の旅の老僧が村に現れ、「その魚は昔、この地で無念に死んだ者の怨念が化けたものだろう」と語ります。そして村人たちに仏具と経文を借り、湖のほとりで供養を始めました。老僧は何日も読経を続け、湖に向かって手を合わせると、ある晩、湖から不気味なうなり声とともに大波が起き、夜が明けると湖の水は静まり返っていました。

それ以来、湖では不思議な現象が一切起こらなくなり、村人たちも再び湖の水を使ったり、魚を取ったりできるようになりました。老僧は静かに村を去り、村人たちは「湖の主も成仏されたのだ」と手を合わせるようになりました。今でもその湖には祠が建てられ、村人たちは感謝と恐れを込めて供え物を続けているということです。

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