56.日本おとぎ噺 「乞食のくれた手ぬぐい(こじきのくれたてぬぐい)」
昔、ある村の金持ちの男が、峠道の茶屋で休んでいた。そこへ旅の途中らしき一人の乞食が現れ、「何か食べ物を恵んでくだされ」と頼んだ。男は最初無視しようとしたが、乞食の態度があまりにも丁寧で、言葉も穏やかだったため、つい握り飯を一つ与えた。乞食は深く礼を言い、代わりに一枚の手ぬぐいを差し出した。「この手ぬぐい、ただの布ではございません。困ったときにお使いなされ」と。

男は内心「布切れ一枚で礼とは妙なことよ」と笑ったが、懐にしまい、再び旅を続けた。ところがある夜、峠を越えた先の宿で賊に襲われ、持ち物をすべて奪われてしまう。命からがら山中に逃げ込み、絶望していると、ふと手ぬぐいのことを思い出す。何気なくそれを取り出し、「助けてくれ」とつぶやいた。

すると、どこからともなく風が起こり、手ぬぐいが光りだした。次の瞬間、目の前に立派な屋敷が現れた。男が中に入ると、食事や衣類、休む部屋まで何もかもが整っていた。「これは夢か幻か……」と疑う間もなく、男は一夜を過ごした。朝になると屋敷は跡形もなく消え、ただ野原の真ん中に立っていた。だが、懐には金と食料が残っていた。

男は村に戻り、手ぬぐいの不思議を人々に語った。それからというもの、あの乞食の姿を見た者はいない。男は分け与えの心を忘れず、富んだのちも施しを欠かさぬようになった。あのときの一枚の手ぬぐいが、彼の人生を変えたのだった。

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