104.日本おとぎ噺 「年神さま」
昔々、ある山里の小さな村に、年の瀬を迎える老夫婦が住んでおりました。子どももおらず、二人はつましい暮らしを送っていましたが、正月の支度をする米も餅もありません。夫婦は「せめて神棚だけはきれいに」と、囲炉裏端で古い神棚を丁寧に拭き清めました。そこへ、不思議なことに、背中に大きな俵を担いだ白髪の老人が現れます。

老人は優しく笑い、「私は年神。お前たちが清らかな心で迎えるなら、今年の恵みを授けよう」と言いました。夫婦が戸惑いながらも招き入れると、年神さまは俵の口をほどき、中から白米と丸餅を取り出します。囲炉裏の火がやわらかく照らし、老夫婦の目は涙で光りました。「ありがたい…これで正月が迎えられます」。年神さまは静かにうなずき、俵を置いて立ち去りました。

新年を迎える朝、老夫婦は米と餅を供え、年神さまを心から祀りました。不思議なことに、供え物をするたびに俵の中身は尽きることなく満ち続けます。その恵みで老夫婦は村の人々にも餅を分け与え、村全体が笑顔で正月を祝うことができました。村人たちは口々に「年神さまのおかげだ」と感謝を述べます。

やがて春が訪れ、再び山に戻る時が来た年神さまは、夢の中で老夫婦に告げました。「来年も清らかな心で迎えよ」。老夫婦はその教えを胸に、毎年神棚を清めて年神さまを迎えるようになりました。それから村は豊かになり、人々は互いに助け合いながら暮らしたといいます。年神さまは今も正月になると、どの家にも幸せを運ぶのです。

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