36.『江戸小咄』「薪屋(まきや)」
寒風吹きすさぶ冬の朝。長屋の与太郎は、大家の指図で薪を買いに行くことに。だが金は一文も渡されず、「勘定は“つけ”で頼め」とのこと。「つけだなんて、ちょいと気が引けるな」と与太郎は呟きつつも、仕方なく薪屋へ向かう。

薪屋の店先では、主人がせっせと薪を束ねていた。与太郎は恐る恐る、「あの、長屋の与太ですけど、薪を十束、つけで……」と頼む。主人は渋い顔をしながらも、「あいよ、十束ね」と受け入れる。与太郎はほっとした顔で、「さすが、薪屋の旦那は気前がいい」と感心する。

ところが、与太郎が店を出ようとしたとき、ふと気づく。「あれ? “つけ”って、いつ払うんで?」と主人に尋ねると、薪屋はにやりと笑って答える。「あっしの“つけ”は、“月”のことだ。来月の“つけ”に、払いな」
与太郎はぽかんとしつつ、「なんだ、“つけ”って、月のことか! てっきり“帳面に書く”ことかと思ってた」と妙に感心する。

長屋に戻った与太郎、薪をどさりと降ろして一言。「薪屋の旦那、月がつくような顔してたけど、ほんとに“月”でやんした!」
大家や近所の者たちは、あきれつつも笑いながら、「こいつの頭じゃ、“つけ”の意味も変わっちまう」と茶化す。
――江戸の町には、知恵と笑いが薪のように積み重なっていたのでござんす。

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