27.『古典落語』「火事息子(かじむすこ)」
江戸の町、火事と喧嘩は江戸の華。とりわけ火事には町人の血が騒ぐ。ある材木屋の若旦那・徳三郎は、その火事に取り憑かれたような男。火の手が上がれば、どこからともなく駆け出して行き、火消しのまねごとをする。店の者も親も手を焼くほどの“火事狂い”。折しも、そんな徳三郎に婿入りの話が持ち上がるが、相手先は名門の道具屋。火事好きが知れれば台無し、親は「お前は火事を忘れろ」ときつく言い聞かせる。

婿入りを控えたある日、徳三郎は「火事なんぞ、もう興味もない」と殊勝な様子を見せ、ついには祝言の日を迎える。白無垢の花嫁、立派な支度、格式ある披露の場──だがその最中、町内に「火事だ!火事だ!」の声が響き渡る。瞬間、徳三郎の顔つきが変わる。「いけねぇ、あっしゃ行かなくちゃ!」と、花婿衣装のまま飛び出そうとする姿に、周囲は唖然。使用人たちが押しとどめるも、火の粉とともに心が燃え上がる徳三郎。

なんとか場を取り繕うが、徳三郎の火事への情熱は抑えきれない。その後も火事の度に家を抜け出し、頭に手ぬぐい、袴姿で火事場へ馳せ参じる。ある時などは、燃え盛る屋根に登って消火の真似をし、まるで火消しの頭のような気取りぶり。だが、当の火消しからは「素人がしゃしゃるな!」と怒鳴られる始末。婿入り先でも問題になり、ついに義父母が「こんな男とはやっていけない」と追い出されてしまう。

戻ってきた徳三郎に、父親は「お前の火事好きも度を越している」と激怒。だが、息子はしれっとして、「火事が来たら、誰かがやらなきゃなりません」と言い張る。だが、その姿にどこか町人らしい真っ直ぐさが漂い、親もついには「まぁ、火事のときはせめて内緒で行け」と折れる。江戸の空には今日も火の見櫓の半鐘が鳴る。徳三郎のような“火事息子”もまた、江戸の風情の一つなのかもしれない。

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