3.「私の与太話」「トウモロコシ」
季節が来た。、初物のトウモロコシをもらった。。私は胸が騒ぐ。妻は「甘みが出るから」と大鍋でゆで始めるが、私は断然“焼き派”だ。学生時代、海辺の海の家を三軒任され、毎日炭火で何百本も焼いていた。潮風の中で醤油の焦げる匂いを嗅ぐと、夏が始まった気がしたものだ。

ところが今住む土地では、有名な甘い品種があり、「まずはゆでる」が当たり前らしい。しかも、一度ゆでてから焼くという。私は初めて見たとき、「それでは炭火の意味が半分なくなる」と驚いた。だが近所の人たちは、「このほうが柔らかくて上品」と笑う。屋台味育ちの私は、つい“焼き目こそ本体”と思ってしまう。

先日も妻が、ゆでたトウモロコシを網へ並べながら、「この土地の味にも慣れなさい」と言った。私は一本かじり、「うーん、やっぱり少し水っぽい」と首をかしげた。すると妻は、「昔の海の家じゃないんだから」と呆れ顔。私は負けじと炭を起こし、生の一本を別に焼き始めた。香ばしい匂いが立ち、昔の客たちの声まで聞こえた気がした。

焼き上がった二本を食べ比べ、私は腕を組んで真剣に考えた。妻は得意げに、「どう? こっちも悪くないでしょう」と笑う。私はしばらく黙っていたが、やがて静かにうなずいた。
「なるほど……人間もトウモロコシも、長く住むと“ゆで上がる”らしい。」

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