163.日本おとぎ噺 「白鳥の関(はくちょうのせき)」
むかし、陸奥(みちのく)の国から都へ向かう旅人たちは、ある「関所」を通らねばなりませんでした。そこは「白鳥の関」と呼ばれ、通行には厳しい取り調べがありました。関守は無愛想で、特に「女の一人旅」は通さないという掟がありました。
ある日、美しい女性が関所にやって来ました。彼女はどうしても都へ行かねばならないと懇願しますが、関守は頑なに拒みます。女は悲しげな目をして関を見上げ、やがて涙を流しました。

女はしばらく関の前でうずくまっていましたが、やがて立ち上がると、空を見上げて何かを祈るように両手を広げました。すると、不思議なことに、彼女の体が白く光り始め、ふわりと宙に浮かび、やがて一羽の白鳥の姿になって空へと舞い上がっていきました。
関守をはじめ、見ていた者は言葉を失い、ただ呆然とその姿を見送りました。

白鳥は空高く舞い、都の方角へと飛び去っていきました。その姿は美しく、神々しささえ感じさせました。関守は、その姿に何か大切なものを見せられたような気がし、しばらく黙って立ち尽くしていました。
それからというもの、彼の態度は少しずつ変わっていきました。以前のように高圧的に振る舞うことはなくなり、特に困っている旅人には手を差し伸べるようになったといいます。

それから長い年月が経ちましたが、「白鳥の関」の名は今も語り継がれています。「白鳥に姿を変えた旅の女」は、神の使いであったとも、悲しい運命を背負った魂だったとも言われています。
そして、その出来事以来、関守は「優しき関守」と呼ばれ、旅人たちから感謝される存在になったそうです。白鳥の飛んだ空は、今も穏やかに広がっています。
