『宮沢賢治の詩と心象風景』第九回「農民芸術概論綱要」第7話 農民芸術の批評と教育/全8話
【原文】
……正しい評価や鑑賞はまづいかにしてなされるか……
批評は当然社会意識以上に於てなさねばならぬ
誤まれる批評は自らの内芸術で他の外芸術を律するに因る
【現代語訳文 】
――正しく作品を見つめ、その価値を受け取るには、どうすればよいのだろう。
批評は、ひとりの好みや感情だけでなく、社会全体を見渡す意識の上に立って行われなければならない。
誤った批評とは、自分の内にある芸術の尺度だけを絶対とし、外に生まれた異なる芸術まで、その物差しで裁こうとすることから起こるのだ。

【原文】
産者は不断に内的批評を有たねばならぬ
批評の立場に破壊的創造的及観照的の三がある
【現代語訳文 】
創り手は、いつも自分の仕事を内側から見つめ、問い直す目を持たなければならない。
批評には、古いものを打ち崩す眼、新しいものを生み出す眼、そして静かに作品の真実を見つめる眼がある。
その三つのまなざしを胸に宿してこそ、芸術は絶えず深まり、次の光へ進んでゆく。

【原文】
破壊的批評は産者を奮ひ起たしめる
創造的批評は産者を暗示し指導する
創造的批評家には産者に均しい資格が要る
【現代語訳文 】
破壊する批評は、創り手の眠った力を呼び覚まし、もう一度立ち上がらせる。
創造する批評は、まだ見えない道に小さな灯をともし、次の一歩を静かに導いてゆく。
だから創造的な批評をする者には、作品を外から裁くだけでなく、自らも生み出す者と同じほどの力と責任が求められるのだ。

【原文】
観照的批評は完成された芸術に対して行はれる
批評に対する産者は同じく社会意識以上を以て応へねばならぬ
斯ても生ずる争論ならばそは新なる建設に至る
【現代語訳文 】
観照する批評は、すでに形を結んだ芸術を、静かに深く見つめるためにある。
その声を受ける創り手もまた、個人の誇りや感情を越え、社会を見渡す広い意識をもって応えなければならない。
それでもなお論争が起こるなら、その火はただ傷つけ合うためではない。古い壁を照らし、新しい建設へ進むための光となるのだ。
