154.日本おとぎ噺 「踊る化けもの(おどるばけもの)」
昔、ある村の若者が旅の途中で古い寺に泊まることになった。夜更け、奥の座敷から笛や太鼓の音が聞こえ、不思議に思った若者は障子の隙間から覗いた。そこでは、髪を振り乱した異形の化けものたちが、酒を酌み交わし、囃子に合わせて狂おしいほど踊っていた。人ならぬ気配に震えながらも、若者は目を離すことができなかった。

やがて化けものたちは、若者に気づき「一緒に踊れ」と誘った。怖さをこらえて舞に加わると、不思議なことに身体が軽くなり、心は浮き立ち、恐怖よりも楽しさが勝っていった。化けものの群れは、面をかぶり、異様に長い手足を振り乱しながら、夜明けまで笑い声を響かせた。若者は夢中になり、次第に恐ろしさすら忘れていた。

夜が明けるころ、化けものたちは「また来いよ」と言い残し、霞のように消えていった。若者が気づくと、身体は疲れ果て、足はふらついていた。村へ戻ると、誰に会っても「顔色が悪い」「まるで抜け殻だ」と言われ、日を追うごとに痩せ衰えていった。あの夜の楽しさが忘れられず、若者は再び寺へ通うようになった。

ついには若者の姿は村から消え、二度と戻ることはなかった。人々は「化けものに魂を奪われた」と噂し、寺は恐れられるようになった。それ以来、村人たちは夜更けに寺へ近づくことを避け、笛や太鼓の音が風に混じって聞こえるたび、静かに戸を閉ざしたという。
