『宮沢賢治の詩と心象風景』第九回「農民芸術概論綱要」 第3話 新しい時代の農民像/全8話
【原文】
職業芸術家は一度亡びねばならぬ
誰人もみな芸術家たる感受をなせ
個性の優れる方面に於て各々止むなき表現をなせ
【現代語訳文 】
芸術を、特別な者だけの仕事にしてはならない。
名高い芸術家という垣根は、いちど消え去ればよい。
土を耕す者も、汗して働く者も、
みな心に世界を感じ取る力を持っている。
それぞれが、自分に授けられた個性の光を見つけ、
胸の内からあふれて、どうしても抑えきれないものを、
歌に、形に、仕事に、暮らしに表そう。
人はみな、生きることによって芸術家となるのだ。

【原文】
然もめいめいそのときどきの芸術家である
創作自ら湧き起り止むなきときは行為は自づと集中される
そのとき恐らく人々はその生活を保証するだらう
【現代語訳文 】
しかも人はみな、それぞれの時、その場所で芸術家となる。
心の底から創りたいものが泉のように湧き、
どうしても表さずにはいられなくなったとき、
人の力も思いも、ひとつの行為へ自然に集まってゆく。
その真実の創作が人々の心を動かすなら、
まわりの者たちも、きっとその営みを支え、
芸術に生きる人の暮らしを守ってくれるだろう。

【原文】
創作止めば彼はふたたび土に起つ
ここには多くの解放された天才がある
【現代語訳文 】
創作の泉が静まれば、
彼はまた土の上に立ち、鍬を手にする。
芸術と労働は離れたものではなく、
同じ暮らしの中で、季節のように巡ってゆく。
見渡せば、この野にも村にも、
決まりごとや身分から解き放たれた、
数多くの才能が眠っている。
一人ひとりの個性が光を得て、
新しい世界をつくり始めるのだ。

【原文】
個性の異る幾億の天才も併び立つべく
斯て地面も天となる
【現代語訳文 】
それぞれに違う個性を持つ、
数えきれないほどの天才たちが、
互いを押しのけることなく、並んで立つ。
誰か一人だけが輝くのではない。
一人ひとりの力が自由に花ひらき、
大地の上に、無数の光をともしてゆく。
こうして人の暮らす地上は、
遠い空の彼方ではなく、
そのまま天の国のように輝くのだ。
