145.日本おとぎ噺 「身がわり観音(みがわりかんのん)」
昔、山あいの村に一人の若い百姓が暮らしていた。働き者で人々から慕われていたが、ある日、無実の罪を着せられ、奉行所に引き立てられてしまう。必死に否を訴えるも聞き入れられず、処刑される運命に。牢の中で彼がただ祈ったのは、家族の安寧と無実を証すことだった。その祈りを聞き届けたかのように、牢の片隅に置かれていた小さな観音像が、月明かりに照らされ柔らかく光を放った。

処刑の日、若者は縄で縛られ刑場に引き出される。村人たちは信じられない思いでその姿を見守り、涙する者も多かった。刑吏が刀を振りかざしたその刹那、突然空がかき曇り、風が渦を巻いた。人々が目を覆った瞬間、斬り落とされたのは若者ではなく、観音像であった。木の像が血のような赤を流し、若者は無傷のままその場に倒れ込んだのである。

その奇跡に場は騒然となる。奉行は恐れをなし、若者を釈放せざるを得なかった。村人は口々に「観音さまが身代わりになられた」と涙を流し、若者を抱きしめた。若者自身も信じがたい思いで観音像に向かい、ただ深く手を合わせた。以来、村人たちは像を寺に移し、厚く祀るようになった。観音の御心は、人を救う慈悲そのものだと語り継がれていく。

その後も村では、観音さまの身代わり伝説が語り継がれ、人々の心を守り続けた。無実の者を救った奇跡は、子や孫へと伝えられ、観音像の前にはいつも花や灯明が絶えることがなかった。人々は「正しき心で祈れば、観音さまは必ず応えてくださる」と信じ、村は長く平穏を保ったという。
