62.『古典落語』「初雪」
ある冬の朝、江戸の町に待ちに待った初雪が降る。瓦屋根に薄く積もり、子供たちは喜び庭を駆け回る。そんななか、与太郎が長屋の前で空を見上げながら「雪ってのはいいもんですねぇ」としみじみつぶやく。そこへ隣人のご隠居が現れ、「雪の日は風情を味わうもんだよ。熱燗をちびちびやりながら、炭火にあたってな」と語る。与太郎は感心しつつも、「雪の日には、なにかもっと粋なことをしてみたい」と思い始める。

ご隠居は、「昔は雪見の茶会なんてのもあったもんだ」と話すと、与太郎は興味津々。「じゃあ、あっしも雪見のまね事でも」と言い出し、鍋や火鉢を持ち出して、縁側に座る。すると、通りすがりの八五郎が「与太、何してる?」と声をかけると、「雪見で一杯です」と得意げに言う。だが、寒さに震えながらの酒は、どうにも様にならない。そこへ町内の連中も集まってきて、「なんだなんだ、与太が風流人かい」と茶化される。

与太郎は「せっかくの雪ですから、みんなでもっと楽しみましょう!」と、勝手に雪見の宴を始めてしまう。長屋の空き地にござを敷き、酒や肴を持ち寄るが、寒さに耐えかねて次第に口数も減ってゆく。とどめに強い風が吹き、雪が吹き込んできて、火鉢の火も消えてしまう。皆一斉に「寒い寒い!」「風流どころじゃねえ!」と騒ぎ出す。

結局、宴は中断。皆が凍えながら家に引き上げるなか、ご隠居がぽつりと、「雪見とは、心で味わうもんだよ」と言う。与太郎は「へえ…今度は家の中で、炭火を囲って一人でやります」と肩をすぼめる。笑い声とともに雪はしんしんと降り続き、江戸の初雪の一日が、滑稽と風情を交えて幕を下ろすのであった。
