よもやま文庫/語り継ぐこころ

日本おとぎ噺・江戸小咄、古典落語・笑いの匠たち・私の与太話・古典小説のダイジェスト版と挿絵です。 文も挿絵もChatGPTが作っています。ちょんまげの描写が正しくできません。お許しを。

『宮沢賢治の詩と心象風景』第六回「小岩井農場」5話 老馬と桜並木の荷馬車/全12話

100えんメガネ

【原文】

木立がいつか並樹になつた
この設計は飾絵式だ
けれども偶然だからしかたない
荷馬車がたしか三台とまつてゐる
生な松の丸太がいつぱいにつまれ
陽がいつかこつそりおりてきて
あたらしいテレピン油の蒸気圧
一台だけがあるいてゐる
けれどもこれは樹や枝のかげでなくて
しめつた黒い腐植質と
石竹いろの花のかけら
さくらの並樹になつたのだ
こんなしづかなめまぐるしさ


【現代語訳文 】

木立は、いつの間にか整った並木になっている。まるで飾り絵のような配置だが、偶然なのだからしかたがない。道には荷馬車が三台ほど止まり、切ったばかりの松の丸太をいっぱいに積んでいる。そこへ陽の光がそっと降り、新しい松脂の香りが蒸気のように立ちのぼる。一台だけが静かに進んでゆく。地面に落ちる色は木や枝の影ではない。湿った黒い腐葉土と、なでしこ色の花びら。それらが重なり、道は桜の並木へ変わってゆく。なんと静かで、目まぐるしい景色だろう。



【原文】

この荷馬車にはひとがついてゐない
馬は払ひ下げの立派なハツクニー
脚のゆれるのは年老つたため
(おい ヘングスト しつかりしろよ
三日月みたいな眼つきをして
おまけになみだがいつぱいで
陰気にあたまを下げてゐられると
おれはまつたくたまらないのだ
威勢よく桃いろの舌をかみふつと鼻を鳴らせ)
ぜんたい馬の眼のなかには複雑なレンズがあつて
けしきやみんなへんにうるんでいびつにみえる……


【現代語訳文 】

この荷馬車には、誰も付き添っていない。馬は払い下げられた立派なハクニーだが、年老いたために脚が揺れている。

おい、ヘングスト、しっかりしろ。三日月のような目をして、涙をいっぱい浮かべ、暗くうなだれていられると、こちらまでたまらなくなる。もっと威勢よく、桃色の舌をかみ、ふっと鼻を鳴らしてみろ。

馬の目の中には、きっと複雑なレンズがあるのだろう。だから景色も、人も、涙ににじみ、少しゆがんで見えるのだ。



【原文】

……馬車挽きはみんなといつしよに
向ふのどてのかれ草に
腰をおろしてやすんでゐる
三人赤くわらつてこつちをみ
また一人は大股にどてのなかをあるき
なにか忘れものでももつてくるといふ風……
(蜂函の白ペンキ)


【現代語訳文 】

荷馬車を引く人たちは、みんなそろって向こうの土手へ行き、枯れ草の上に腰を下ろして休んでいる。三人は日に焼けた顔で笑いながら、こちらを見ている。もう一人は大股で土手の中を歩き、何か忘れ物でも取りに戻るようだ。そんな人々の動きの向こうに、蜂の巣箱へ塗られた白いペンキが、春の光を受けて静かに浮かんでいる。



【原文】

桜の木には天狗巣病がたくさんある
天狗巣ははやくも青い葉をだし
馬車のラツパがきこえてくれば
ここが一ぺんにスヰツツルになる
遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし
いま向ふの並樹をくらつと青く走つて行つたのは
(騎手はわらひ)赤銅の人馬の徽章だ


【現代語訳文 】

桜の木には、天狗巣病の枝がいくつもかたまり、そこだけ早くも青い葉をひらいている。やがて馬車のラッパが聞こえてくれば、この場所はたちまちスイスの高原のようになる。遠くでは鷹が空を鋭く切り、カラマツの若芽はネクタイピンにしたいほど美しい。いま向こうの並木を、青い光のように駆け抜けたもの――笑う騎手と赤銅色の馬は、まるで胸に輝く人馬の徽章そのものだった。


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